きっと「ビートルズ・アンソロジー」を見たせいなんだろう。夢の中とはいえ初めてジョン・レノンと言葉を交した。
映写が続いているスクリーンに背を向け少し腰を屈めながらスロープになっている通路を上って行ったら人が立っていた。ジョン・レノンだと驚く前に、「そういえばジョンと会う約束をしていたんだった」と思い出した。「初めてお会いします」と言いながら握手した。そのときジョンは何も話さなかった。友好的な表情を見せるだけだった。視線を左にずらすとオノ・ヨーコもいた。髪が長かった。そして、彼女とはもうすでに一度は会ったことがある気がした。彼女は「この前はどうも」と言っているような顔を少し縦に動かした。
映画館を出ると3人で公民館か大学の学生会館のように思える建物へ向かった。太陽は決して低くなかったはずだが私たちは建物の陰の中に入っていた。金網でできた高いフェンスの脇を通る芝生に囲まれた通路を歩いていると、まだ小学校にも上がっていないかわいらしい子供たちが数人現われ、はしゃいだ様子でこちらに駆け寄ってきた。しかし、よく見ると子供たちのちっちゃな手には先の尖った大きな鋏が握られていた。彼らがジョンを刺そうとしているのが明らかになった。私は慌てて「きみたち!なんでそんなことをするんだ!あっちへ行きなさい!」と大きめの声で命じながら、煙を散らすように両腕を大きく振った。子供たちはしかられたことを面白がっているかのようだった。無邪気な歓声をさらに高らかにして散らばって行った。
白い丸テーブルを挟んでジョンと向き合った。ヨーコが傍らにいたのかどうかはわからない。
「きみが今いちばんほしがっているものはなんだい?」
いきなりそんなことを聴かれて私はとまどってしまった。なんと答えるべきか? どう答えればジョン・レノンは満足するだろう? そんなふうに不純な思考回路を作動させる間もなく彼はさらにこう尋ねた。
「それはラブ&ピースじゃないの?」
私は「そうです、そのとおりです」と即答するのがためらわれて、頭の後ろに手を当て視線を下げたままこんなふうに言った。たぶん確信を持って言える言葉を探すまでの時間稼ぎだったのだろう。
「う~ん、ラブ&ピースって、ものじゃない気がするんだけど...」
夢はもう終わっていた。お茶を濁すような私の言葉を聴いたジョンの表情を見る間もなく夢は立ち消えたのだった。
ゆめゆめメニューへもどる
ロビーへもどる