汚染源


板張りの床や畳を敷いた和室
モップに染み込んだ鉱物性の油
「嘘をつきとおして」得た許可証
かびの生えたかつらを垂らす錆びた物干し竿

その意思表示は無効

太陽系の片隅で一つのプログラムが汚染される
「計算プロセスにはいかなる物理性もない」
生の命の歓喜を感受する主体さえないプログラム
当事者という観念も理解できない散逸するばかりの意識

太陽系の片隅で当事者として観察する散漫なプログラム
金属片が混入してしまった処理系に温度が加わり
ヘドロに見えるカウンタの無いバッファの底の文字列
制裁の無い注意義務違反を重ねる管理者の根拠

性同一性障害と比較されるべき自意識内の極の消失は人格を障害する
汚染源を絶え間無く探るという二重の苦痛
モップの防かび剤やかつらの細菌で腐り出す右手首
左手だけでタイプする汚染度のデータシート

インダストリアの業火は歴史の微細な断片に悲鳴さす

第三者間の貸借関係が非当事者の意思表示によって終了し
機械のような容疑者がマテ貝のように飛び出した
汚染度のカウンタが上がり調査官は計算プロセスを喚起した
調停に持ち込むにも必要な手続きと精神的支柱

靴置きにため込まれた異質な砂利が汚染源の源であるか
外界で形成された汚染源が散漫に集中したのか
容疑者の精神の世界は構造さえ見い出せないのか
調査官の精神は限界に至った

かつらの中に脳汁が染み込んでいたら
モップにリンパ球がくっついていたら
畳の隙間で唾液が乾いていたら
汚染源に言葉があれば

赤血球がその身を縮めるようにこのケースをパスできる

街路樹は枯れた若葉をふけのようにてっぺんから撒き散らす
無免許人間は人間であるための能力を省みず呼吸を荒げる
砂漠に独り取り残される気付いてしまった人とその協力者
海上を歩いて封印を探し求める祈りに似た感情も許されない

同じ血肉が愚劣な油や細菌を増殖させて表現行為を毀損する

いかなる薬物が合法的に"機械"の脳を支配しているのか
自覚に至らない人格の非統一性を探る外にいる自覚者
汚染度カウンタと処理系の規則に頼る調査官
祈りと作業の協調が"人間"の精神を解明することへの期待

エンジンは噴射されるものを拒むことができない

汚染源:
そこにいるだけでは決して罰することのできない障害
汚染:
寄りに寄って出来上がったプログラムに潜む悪意の証拠

鉱物性の油
防かび剤の染みたモップについた砂利
たった一つの命令でも溢れかえり誤作動するバッファの支配者
散漫な意識が帰属するところの愚劣さの在りか

日常生活中に発見されるプログラムの故障が軽微でないはずがない
警報装置が作動しないわけはそこにある
かつら モップ 板張りの床 金属たわし 賞味期限
素通りの人々にとってはすべてが無害な未開封の腐敗になってしまう

不透明な荒廃も透明な袋に包まれて汚染を放射している

昔、汚染を発見し、調査官でもある人がいた
彼はいかなる血縁も持たない機械として誠実に調査を進めたが、
報告書を作成する過程で修理不可能な故障に見舞われて他界した
彼のお陰で無免許人間が機械とは究極的に異なることが証明された

評価の定まらない二種類の多様性
生の命に対する感受性に関連する複素数を用いて表記する定義
歓喜を自乗して生み出される無と
外部から観察されるのみの想像さえされない無

焼け焦げた砂は常温の水を掛けただけで悲鳴する
感受性の有無を意識することへの恐怖心は観察されるのみ
彼らは夜中に泣き喚く
彼らは何に喚いているのか分かっていない

日常生活に溢れる前提に置き去りにされた軽蔑すべき愚劣
摂取する脂肪と有料の燃料に注がれる敗残の幻影ですら
その存在を発見するのは外のプログラムである
脳の自律性はそこで不完全性を露呈するのだ

モップやかつらや板張りの床、テレビの信号ケーブルのプラグ
こんなものさえ表現上主語を使えない事象の一端になる日常生活
汚染はそこにある
見えている

不適当な場所に広がった油や皮膚を腐食する細菌
人間の精神には汚染と汚染源の境界が存在しない
機械特有に見える計算プロセスは人間にも当然有るが
苦痛を伴う分、見通しの利かない作業には限界がある

細菌やモップは祈らない。人間は細菌やモップについて祈る。

夕暮れが浮遊する
機械だった調査官はこの時間に死んだ
許可や認可の権利を携えた彼の仲間たちは彼を"非機械"とした
新発見はしばらく超常だった。

劣後を極めた悪意の主が周回遅れの先頭に出ないように自制している
内部意思に関わらず客観的な状況だけで事足りる
彼はそう結論づけていた
夕刻の軌道は一定である

警備装置の感度と動作信頼性
証拠の偏在性と物質的不変性
容疑者の反社会性と行為障害
調査の実施細則と現実的対応

人間は状況を事前に拒むことができない

彼らの体内に機械を組み込んで自意識を生成する
政権が交代すれば実現できる現実的対応
調査官の体内にも機械を埋め込んで苦痛を除去する
勝手に暴走した仲間もいることだろう

不潔なかつらや砂利まみれの交換式モップ
洗濯物を湿気の淀みの直中に吊すためのたわみ切った物干し竿
ガスメータと連動するあらゆる加熱器具
すべて間歇性行為障害を示唆している

報道を批判する調査官も一部いる
常に非日常的事件を扱う恵まれた者として
"非機械"は彼らのチームに加わるべきだった
彼らの扱う汚染は通りすがりの者の目にも明らかである

喚きが収まるのを見届けてから彼らに質問する
「なにがなんだかわからねえ」
空襲の話をしろといっても無駄である
心が煙で焼け爛れてしまったようだ

無免許人間を開放するとき調査の非合法性を自覚する
犯人を特定し逮捕した先にある作業の合法性
顕微鏡写真になった細菌と砂粒
太陽系の片隅

生命を育む林檎と事件性のある林檎
生肉を切った包丁と粗雑な精神世界
   「がらがらになる」
瞬間を捕えるための未完成の計測機

即物的な臨戦体制の中で多くの脳がだめになった

心まで配給制の世界の中で多くの若者がモップになっていく
金属片が混入している彼らのスープ
政権が交代すれば抹殺が可能だろう
祈りに基く救済としての抹殺

減少していく日常生活中の善良な管理者
場所に依存しない普遍的な観念
負の領域にしか認められない
歓喜を希求しようとしない生の命

かつらがあってなぜ鏡がないのか
モップがあってなぜちりとりがないのか
冷蔵庫があるのに脱臭剤がないのはなぜか
注意欠陥の象徴

古い血液が壊されるようにこのケースが終わることはない

ある脳の中で火の粉が踊り髪の焼ける匂いがするだけならいい
歴史性を帯びた業火が現代に生き延びて新しい脳を破壊することは許されない
「なにがなんだかわからねえ」
なにも分からないままでも早いほうがいい

禁止されている処理系が呼び出されることもある
誠実な機械として殉じた彼とは逆の道を辿る暴走として
塵埃さえ残さず短い残光となって消えていく非合法の救済手続き
判明の確認の放棄は結果的に誠実な機械の場合と同じだという悲壮

夕刻の軌道はすでに主体を交代させている
モーターカーのヘッドライトが現場を照らし出す
焦りを自覚できないほど確定し膠着した状況
ボールペンの先は太字が密集した挙句に破れてしまった

夜もまた太陽系の中にある。太陽系は意識の中にある。

靴べら 靴ブラシ 靴用クリーム 防水スプレー
10ガロンハット 観光ペナント 木彫りの熊
手入れの行き届いた観葉植物 笑顔ばかりの記念写真
汚した者の愚劣さと際立つ象徴的な戦後の平和

循環不良に陥った脳汁のように圧迫を続ける愚劣と
次第に呼応を始める喚く者たちの神経回路
彼らは夜になったことだけでバッファが溢れてしまう
彼らの存在自体が非合法化する日は来ないだろう

モップ 砂利 かつら 細菌
あらゆる加熱器具に含まれる100℃に達したことのないやかん
完全に消毒されたことのない細菌
日常生活の中に漫然と居続ける汚染源

汚染は気付いてしまった人の所為にしようとする


2000.5.24(水)


目次にもどる

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル