鬼畜
このままじゃ鬼畜に
鬼畜になるしかない
固定資産税が３倍になったなら
とてもじゃないがやっていけない
共産党の演説が
議員の話がほんとなら
富める国の貧しさに胸張り裂けて鬼畜とならむ
無一物になって地に伏し
生まれて初めて思い知る
夏の暑さのおぞましきこと小枝を切られた木にもたれ
冬の寒さのむごきこと貨物レールをくぐるトンネルの底に倒れ
そしてふつふつと心に沸き起こるものを
怒りと呼ぶこともできず
ただひたすらコインを拾う
ただひたすらマンガを漁る
小金を集め小金を作る
金物屋で最後の買い物だ
内税式の古い古い生まれる前からある店だ
鬼畜をやめる道具はないか
やかんと包丁
やかんと包丁
100℃の水を作れるやかん
そんなやかんがほしかった
包丁はなんのために
なんのために研ぐのか
固定資産を切れるのか
朝から晩まで流した汗を流すお湯まで止めたのに
増税額を相殺できない
やかんを火にかける
鬼畜よ死ねるのか
退屈したよとつぶやくように
100℃の水をかぶるのか
３リットルで足りるのか
ただれ ふくれ むけた皮膚を誰がどうする
豆腐皮（ゆば）のようには浮かべずに
浮かばれぬなら石を飲め
石を飲め
フッ素のような薄い黄緑色
そんな体では
見つかってしまえばモノになる
鬼畜よりもなり下がる
死体写真によだれを垂らす
裕福なコレクターたちが集うショーパブの見せ物へ
鬼畜になったのなら鬼畜といえぬか
固定資産税を払えない鬼畜に
人にもどる道がないのなら
せめて鬼畜のままでいたいと
鬼畜の皮膚はただれ膨れむけた
石を飲めば鬼畜も死ねるという
噂を聞きつけたコレクターたちのカーテンコールが届かない
剥がれた豆腐皮に光さえぎられた薄暗い世界
100℃の水の底に免罪符を求めて
ロースクールの門をくぐる
人よ
鬼畜よ
人よ
鬼畜よ
来るべき者は拒まず
人のような鬼畜よ
鬼畜のような人よ
望む者も望まぬ者も
安らかに堕ちよ
荒びたものはほかにあるべし
鬼畜に門は開いている
1995.6.30―7.1、7.4